いよいよ人名のついた病名の病態別まとめも4回目となりました。
最後は血液、循環器、呼吸器です。
意外と循環器や呼吸器は人命のついた疾患は少なめですね。
①(感染症・神経系・染色体異常など)はこちら。
③(消化器、腎・泌尿器、整形外科、精神科、皮膚科、眼科、耳鼻科)はこちら。
人名のついた病名の一覧はこちら(アルファベット順)。
止血機構の異常
Bernard-Soulier症候群
概念: 常染色体劣性遺伝で血小板膜糖蛋白の欠損や異常が起こり、血小板がvWFに結合することが出来ず出血傾向を生じる。
症状: 幼児期からの皮膚粘膜出血、鼻出血
診断: 巨大血小板の存在、血小板数減少(※巨大血小板を機械がカウントできない)、出血時間延長、PT, APTT正常、粘着能低下、リストセチン凝集能低下
治療: 血小板輸血
Glanzmann病(血小板無力症)
概念: 常染色体劣性遺伝で血小板糖蛋白GPⅡb/Ⅲaの欠損や異常が起こり、血小板凝集が障害されて出血傾向を生じる。
症状: 幼児期からの皮膚粘膜出血、鼻出血
診断: 出血時間延長、血小板数正常、PT, APTT正常、血餅退縮能低下
治療: 血小板輸血
von Willebrand病
概念: 常染色体優性遺伝に血中von Willebrand因子の量的・質的異常により出血傾向を生じる疾患。
症状: 幼児期からの紫斑、鼻出血、歯肉出血、消化管出血 ※関節内出血はない
診断: 出血時間延長、血小板数正常、APTT延長、PT正常、凝固第Ⅷ因子活性低下
治療: 第Ⅷ因子製剤、デスモプレシン(DDAVP)
Schönlein-Henoch紫斑病(アレルギー性紫斑病、IgA血管炎、血管性紫斑病)
概念: IgAを中心とした免疫複合体の沈着により引き起こされる小型血管炎。血管透過性が亢進し、組織への浮腫と出血を生じる。
好発: 4~7歳の小児、若年成人
症状: 上気道感染(溶連菌)の1~3週間後に発症する。下腿の左右対称性の紫斑、関節痛、腹痛(腸重積のことも)、消化管出血、血尿、蛋白尿がみられる。
診断: 紫斑を生じるが、血小板、凝固系は正常。血清IgA↑、赤沈亢進、CRP陽性。生検で血管壁にIgA沈着をみる。
治療: 小児は予後良好で、経過観察または対症療法。成人は腎障害をきたしやすく積極的に治療する。ステロイド、免疫抑制剤など。
Kasabach-Merritt症候群
巨大血管腫(四肢、頭頸部、体幹、内臓)と血小板減少に伴う紫斑などの症状を来す疾患。DICを合併するため、早期の診断が重要。
Osler-Weber-Rendu病(遺伝性出血性毛細血管拡張症)
常染色体優性遺伝で血管内膜の内弾性板および平滑筋の欠損を起こし、出血傾向(鼻出血など)と毛細血管拡張を来す疾患。肺、脳、肝などに動静脈瘻を来す。
Hermansky-Pudlak症候群
出血症状、眼・皮膚の色素消失、臓器障害(肺線維症など)を三徴とする常染色体劣性遺伝の疾患。
May-Hegglin異常症
常染色体優性遺伝の先天性血小板減少症。MYH9遺伝子の異常がみられる。無症状のことが多いが鼻出血、歯肉出血など出血症状を来すことがある。Alport症状(腎炎、難聴、白内障)を合併することがある。
Scott症候群
活性化した血小板膜表面の凝固活性が低下するために出血傾向を来す遺伝性疾患。
赤血球・白血球の異常
Fanconi貧血
常染色体劣性遺伝の骨髄低形成と奇形(小頭症、腎奇形、小眼球)、3~4歳以降に再生不良性貧血を来す。MDSや白血病、固形癌を合併することも多い。
治療は造血幹細胞移植となる。
Plummer-Vinson症候群
鉄欠乏性貧血に舌炎、口角炎、嚥下障害などの粘膜症状を合併したもの。輪状後部癌(下咽頭癌)を続発することもある。
Evans症候群
温式自己免疫溶血性貧血AIHAに特発性血小板性紫斑病ITPを合併したもの。経過中にSLEに移行しやすい。
Diamond-Blackfan症候群
先天性の赤芽球癆。
Imerslund-Gräsbeck症候群
常染色体劣性遺伝の先天性Vit. B12吸収不全。若年性巨赤芽球性貧血と末梢神経障害、認知症などを来し、致死的。
造血器・リンパ系腫瘍
Burkittリンパ腫
B細胞性の悪性リンパ腫で回盲部、卵巣、腹膜リンパ節など腹部に初発しやすい。t(8;14)によるMYC遺伝子の高発現がみられる。一部ではEBウイルスが発症に関与している。
病理では腫瘍細胞のびまん性増殖の中にマクロファージが多数みられる(starry sky)。Ki-67陽性である。
急激な経過を取ることが多く、治療はリツキシマブ併用の強力化学療法。
Hodgkinリンパ腫
概念: リンパ系腫瘍の1つで、Hodgkin細胞やReed-Sternberg細胞といった特徴的な細胞が出現する。悪性リンパ腫の5%を占める。
好発: 20代と60代の二峰性のピーク
症状: 頸部の無痛性・可動性・弾性硬・連続性進展のリンパ節腫脹、発熱、盗汗、体重減少
診断: 血液検査で正球性生色素性貧血、LDH↑、赤沈亢進、CRP↑を認める。リンパ節生検でHodgkin細胞やReed-Sternberg細胞を認める。
治療: 化学療法と放射線療法が主体。化学療法はABVD療法(アドリアマイシン、ブレオマイシン、ビンブラスチン、ダカルバジン)。その他自家造血幹細胞移植など。
Waldenströmマクログロブリン血症(原発性マクログロブリン血症)
概念: B細胞性腫瘍であるリンパ形質細胞性リンパ腫によりモノクローナルにIgMが産生されることによって様々な症状を呈する疾患。
症状: 【過粘稠症候群】頭痛、めまい、意識障害、視力障害(眼底網膜静脈のソーセージ様怒張)【クリオグロブリンの場合】Raynaud現象【悪性リンパ腫症状】全身のリンパ節腫脹、肝脾腫、貧血、出血傾向、易感染性
診断: 単クローン性のIgMの著増、末梢血で赤血球連銭、骨髄塗抹標本ではB細胞性の腫瘍細胞を認める。
治療: 症状があれば治療を行う。化学療法(メルファラン・プレドニゾロン療法、リツキシマブなど)、過粘稠度症候群に対して血漿交換療法。
※クリオグロブリンはC型肝炎、SLE、Sjögren症候群などで出現する。
Crow-Fukase症候群(POEMS症候群、高月病)
脱髄性多発ニューロパチー、臓器腫大、内分泌障害(女性化乳房、甲状腺機能異常)、M蛋白、皮膚症状(色素沈着、剛毛、血管腫)を5徴候とする疾患。その他、浮腫、胸腹水と骨硬化性病変を加えた8所見が見られることもある。MMと異なり易骨折性は無い。
治療はVEGF阻害薬であるサリドマイド。
菊池病(亜急性壊死性リンパ節炎)
Richter症候群
慢性リンパ性白血病の末期に悪性度の高い非Hodgkinリンパ腫に移行したもの。
循環器疾患
Adams-Stokes症候群
徐脈、頻脈を問わず不整脈が原因で起こる脳虚血発作のこと。前駆症状として動悸や胸痛を自覚することがある。
Brugada症候群
概念: 心室細動の原因となり、若年〜中高年の突然死を引き起こす。日本やアジアに多いことが知られている。心筋Naチャネル遺伝子(SCN5A)の異常が代表的。
症状: 夜間睡眠中、食後安静時、満腹時など副交感神経亢進時に心室細動発作を起こし、失神や突然死を来す。
診断: 心電図で特徴的なST上昇を認める(covered type, saddle back type)。
治療: ICD植え込み。
Buerger病(閉塞性血栓性血管炎: TAO)
概念: 主に膝窩動脈や前腕動脈以下の比較的細い動脈に好発する血管炎による動脈狭窄・閉塞および血栓形成による虚血を来す疾患。
好発: 40歳以下の男性喫煙者
症状: 四肢末梢の冷感、しびれ、間欠性跛行、手指・足趾の虚血症状(有痛性潰瘍、壊死)
診断: 四肢末梢の皮膚温低下、末梢動脈拍動の減弱・消失、足関節上腕血圧比(ABI)の低下
動脈造影にて末梢主幹動脈の途絶・先細り、蛇腹様の血管攣縮、cork screw状・架橋状の側副血行路を認める。
治療: 禁煙指導、患肢の保温、抗血小板薬、血管拡張薬(プロスタグランジンE1)、交感神経切除術。
Dressler症候群(心筋梗塞後症候群)
心筋梗塞発症後、約2~8週間で発熱、胸痛を伴い発症する心膜炎。自己免疫的機序が考えられており、ステロイドが著効する。
Jervel and Lange-Nielsen症候群
常染色体劣性遺伝でKチャネルをコードする遺伝子異常を有する。先天性QT延長症候群の原因となり、聾唖を合併する。運動や興奮、びっくりすると失神発作を起こす。
Romano-Ward症候群
常染色体優性遺伝でKやNaチャネルをコードする遺伝子異常を有する。先天性QT延長症候群の原因となり、運動や興奮、びっくりすると失神発作を起こす。
Raynaud病
寒冷や激しい感情の動きなどで、動脈や小動脈が収縮し、四肢末端に疼痛やチアノーゼを来す疾患。
WPW症候群(Wolff-Parkinson-White症候群)
心房と心室を直接連結する副伝導路(Kent束)により心室の早期興奮が生じる疾患。非発作時は心電図にてΔ波、PQ間隔短縮、幅の広いQRS波を認める。
しばしば房室回帰頻拍(AVRT)、偽性心室頻拍(pseudo VT)を合併する。
治療はAVRTに対して迷走神経刺激法、ATP、Ca拮抗薬静注。pseudo VTに対してNaチャネル遮断薬静注を行う※pseudo VTにはジギタリス、Ca拮抗薬は禁忌!
血行動態不安定例には根治術としてカテーテルアブレーション。
Libman-Sacks型心内膜炎
SLEに起こりやすい、弁尖やその周辺組織に疣贅を形成する非感染性の心内膜炎。病理ではフィブリノイド変性が中心でヘマトキシリン体を認める。
先天性心疾患
Ebstein病
三尖弁が偏位し、右室壁に付着することにより三尖弁閉鎖不全となり、三尖弁逆流から右心不全を来す疾患。卵円孔開存やASD、右房拡大による心房粗動、心房細動、WPW症候群を合併することがある。
症状が強ければ手術(三尖弁形成術+ASD閉鎖術など)を行う。
Fallot四徴症
概念: 胎生期の円錐中隔の前方偏位により、肺動脈狭窄、心室中隔欠損、大動脈騎乗、右室肥大を来す疾患。22q11欠失症候群を合併することがある。
症状: 新生児期以降からのチアノーゼ、生後2~3ヶ月から啼泣時などに起こる無酸素発作(anoxic spell)。
診断: 聴診で第2~3肋間胸骨左縁で収縮期雑音(PSによる)、Ⅱ音の亢進を認める。心電図にて右軸偏位、右室肥大を認める。胸部X線で主肺動脈部の陥凹、木靴型心を認める。
確定診断は心エコー、心カテーテルによる。※心不全は来さない
治療: 姑息的にBlalock- Taussig手術(鎖骨下動脈-肺動脈短絡)、根治術は心内修復術を幼児期に行う。無酸素発作に対して鎮静(モルヒネ)、酸素投与、胸膝位、アシドーシス補正(重炭酸ナトリウム)、重い発作にはβ遮断薬。※β刺激薬、ジギタリスは禁忌
Eisenmenger症候群
概念: ASD, VSD, PDAなどの左右シャントの疾患によって肺血管抵抗が上昇した結果右左シャントになった状態。
症状: 息切れとチアノーゼ
診断: 聴診にてⅡpが著しく亢進している。収縮期雑音は無いか弱い。心電図で右室肥大を認める。胸部X線で主肺動脈の突出、末梢肺血管陰影の消失を認める。
治療: 手術適応は無い。予後不良。
Valsalva洞動脈瘤破裂
右冠動脈洞、無冠動脈洞が(多くは先天的に)弱いために生じた動脈瘤が破裂することで起こる。突然の左右シャントが起こり肺水腫、心不全を来す。大動脈の血流がなくなるため、大脈・速脈、脈圧の増加、連続性雑音を認める。
治療は手術。
Bland-White-Garland症候群
左冠動脈が肺動脈から起始する先天性心疾患。
呼吸器疾患
Pancoast症候群
概念: 肺尖部に生じた腫瘍が胸郭外の腕神経叢や頸部の交感神経、脈管を圧迫・浸潤することによって起こる症状。
好発: 肺癌、特に扁平上皮癌に多い
症状: ①腕神経叢への圧迫・浸潤→患側の上肢痛、しびれ、運動麻痺(尺骨神経の障害が多い)②頸部の交感神経の圧迫・浸潤→Horner症候群③脈管の圧迫・浸潤→上肢の浮腫
Kartagener症候群
先天性の線毛の運動障害。慢性副鼻腔炎や気管支拡張症などを来し、内臓逆位を伴うことが多い。
Goodpasture症候群
概念: 肺胞壁と腎の糸球体基底膜の共通成分に対する抗糸球体基底膜抗体(抗GBM抗体)により、アレルギーⅡ型の機序でびまん性肺胞出血・急速進行性腎炎の両者を来すもの。治療しなければ予後不良。
症状: 咳嗽、喀血、血痰、呼吸困難、肉眼的血尿、蛋白尿、乏尿、無尿を認める。
診断: 喀痰の鉄染色で担鉄細胞(赤血球を貪食した肺胞マクロファージ)を認める。胸部X線でびまん性粒状影・網状影、呼吸機能検査では拘束性換気障害がみられる。腎の病理では半月体形成糸球体腎炎を認める。
治療: ステロイド、血漿交換、透析療法など。
Langerhans細胞組織球症(Hand-Schüller-Christian病・Lettere-Siwe病)
概念: Langerhans細胞が増殖し、臓器に浸潤する疾患。標的臓器は肺、骨、皮膚、下垂体、リンパ節など様々である。以下肺Langerhans細胞組織球症について述べる。
好発: 20~40代男性、喫煙者
症状: 無症状のこともある。乾性咳嗽、労作時呼吸困難、喀痰、気胸(それに伴う胸痛)を認める。
診断: 胸部CTにて上肺野優位の小結節、小嚢胞を認める。進行すると多数の嚢胞性変化や線維化を来す。病理ではLangerhans細胞およびその周囲の好酸球浸潤を認める。Langerhans細胞は免疫染色でS100蛋白、CD1aなどが陽性となる。
治療: 喫煙者の場合は禁煙。症状が強い時はステロイド。肺移植も検討される。
Wilson-Mikity症候群
新生児の慢性肺障害Ⅲ型。臍帯血のIgM高値、絨毛膜羊膜炎、臍帯炎などの出生前感染があり、胸部X線で泡沫状気腫影を認める。RDSは先行しない。未熟児が2~3週に発症する。
Heerfordt症候群
サルコイドーシスの亜型で発熱、ぶどう膜炎、両側耳下腺腫脹、顔面神経麻痺の4つを来す疾患。
Mendelson症候群
誤嚥性肺炎のうち、胃液や胃内容物吸引による化学的な炎症が主体のもの。重症化しやすい。
Pickwick症候群(肥満低換気症候群)
睡眠時無呼吸症候群SASのうち、高度の肥満と肺胞低換気を伴うもの。
Poland症候群
大胸筋胸肋部、小胸筋の欠損、手指の奇形を伴う疾患。
以上です。気が向いた時に追記していく予定です。
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