ご無沙汰しております。
臨床が忙しく更新が滞っておりました。
先日JB-POTという試験を受験し、無事合格できました。
前年も受験しましたが不合格で、2回目の挑戦でした。
この試験は難易度は低くないのですが、試験料や教材代、講習会などで経済的負担がかなり大きく、受験するまでのハードルが高いです。
この記事では「受験するなら1回で受かりたい」という人や「次こそ合格したい」という人のために、2回受験した経験を踏まえてJB-POTの勉強法を書いています。
JB-POTとは
JB-POT:日本周術期経食道心エコー認定委員会(Japanese Board of Perioperative Transesophageal Echocardiography)の頭文字
手術中(主に心臓外科手術)の経食道心エコー(TEE)に関する知識が問われる認定試験です。
毎年8月ごろから申し込み開始、11月に試験を行っています。会場は東京か大阪でどちらかを選べます。東京はすぐに埋まるので注意が必要です。
JB-POTに合格しないとTEEができないわけではありませんが、心臓血管麻酔専門医の申請条件にJB-POT合格が入っているため、受ける人も多いようです。
受験資格に制限はないので、循環器専門の先生や研修医でも受験している人はいます。
試験内容
CBT形式で行われ、動画問題と文章問題の2ブロックに分かれています。動画と文章問題の間は休憩があります。
動画問題が約40問(1時間半くらい?)、文章問題が約100問(2時間)。
4肢または5肢から1つまたは2つ選ばせる問題が大半です。
私見ですが、動画問題、文章問題ともに時間の余裕はあまりありません。
動画問題は1問あたり3分程度はかけられますが、動画の長さは長いと1分くらいあるため何回も見直すことができません(一応シークは可能です)。
初めて受験した時は時間配分がうまくいかず、最後の方でかなり苦労しました。
動画問題は2回見てよくわからなければ、次の問題に進んだほうがよさそうです。
合格基準・難易度は
合格には動画問題で60%以上 かつ 動画と文章の総合で60%以上の得点率が必要です。
総合で60%以上得点していても動画で60%未満だと不合格になってしまうので注意が必要です。
ここ数年の合格率は
2018年 43.1%
2019年 51.1%
2020年 57.6%
2021年 61.9%
2022年 60.5%
近年は合格率が上がっていますが、実技のない試験としては難易度は高いほうと思います。
勉強方針
合格するためには動画問題で60%得点は必須。
そのため普通は「動画問題で高得点、文章問題はそこそこで総合60%目指す」という戦略になると思います。
しかしながら「動画問題で高得点」は臨床経験が必要で、そう簡単ではありません。
一方で文章問題は対策をすれば得点に反映されやすいので、
私は動画・文章ともにギリギリ60%以上を目標にしていました。
1回目の受験では動画問題50%、文章問題68%、総合60%で不合格。
2回目は動画問題63%、文章問題67%、総合65%で合格。
2回目は試験対策に十分時間をかけられなかったのですが、
動画問題対策に力を入れたのが功を奏したようでした。
●それをふまえて1年で合格するためにはどうすればいいか?
1回で合格を目指すのであれば、動画はしっかりと!
講習会の周回はもちろん大事ですが、日々の臨床での経験も重要になってくると思います。
その上で文章問題はとりやすいところを取っていくと合格に近づけるでしょう(詳しくは後述)。
講習会について
TEE講習会
TEE講習会が年2回行われています。いわゆる春と夏。
現地参加とWeb参加があり、現地は東京で開催されます。
現地参加でもWeb配信は見れます。また値段も現地とWebとで変わりません。
講習会のDVDが後日届くので見直しも可能です。
私は春のDVDは見直せましたが、夏のDVDは届いたのが直前のため、全く見れず。
試験に出やすいのはどちらかというと春の講習会の方だったので、優先順位は春>夏の印象です。
問題作成委員が公表されるため、委員の先生の講義は積極的に見たほうが良い印象です。
直前講習
TEE講習会の他に、JB-POT直前講習が9月頃から試験直前まで配信されます。
日本心臓血管麻酔への申し込みが必須で、会員でないと料金が若干高くなります。
直前講習の内容は超頻出であり、視聴はほぼ必須です。また周回する必要があると思います。
2022年と2023年の春・夏・直前を受講しましたが、直前講習については内容はほとんど変わらなかった印象です。
おすすめ対策本
私が使用した参考書を紹介します。
①TEE試験対策ガイド
おすすめ度:★★★★★ ほぼ必須
2022年に発売された数少ないJB-POT対策本です。JB-POT出題委員の先生が多数執筆しており、超音波の基礎から臨床まで幅広くカバーできています。
MitraClipやWATCHMANなど最近のデバイスについての説明がある点や最新ガイドラインに準拠しているところも良い点です。
(JB-POT対策本の多くは翻訳であったり若干古い本も多いので、割と最近に大きく変更された左室壁セグメントなどが現在のものと違っていることがあります。)
分野ごとに練習問題がついており、動画練習問題もあります。QRコードを読み込むと動画を見れるようになっているのでスマホさえあれば演習可能です。
ビデオ問題の解説がかなり薄いところは弱点です(ただし現状動画問題の解説が豊富な参考書はほとんどないのであるだけマシと言えるでしょう…)。
②経食道心エコーハンドブック
おすすめ度:★★★★★ 買っててよかった
辞書的に使える1冊。
翻訳ですが2018年ごろに改訂され、最新のガイドラインに準拠しています。
1ページあたりの密度がとにかく濃く、内容は充実しています。
TEE講習会で口頭のみで言われた内容も載っていたり、JB-POTで問われやすいところが書かれているので、かなり助かりました。
特に役立ったのは、先天性心疾患と各弁(特に正常解剖)の分野です。
文字が小さいのが難点ですが、体系的にまとまっていて買っててよかったと思いました。
③初心者から研修医のための経食道心エコー:部長も科長もみんな初心者
おすすめ度:★★★☆☆
通称ピンク本。教科書的に使える読み物としておすすめですが、続編のII(④)と内容が被っているので④のほうがおすすめです。
④初心者から研修医のための経食道心エコーII:部長も科長ももう初級者
おすすめ度:★★★★☆ ほぼ必須
③の続編。通称緑本。
教科書的に使えるのでわからない所を調べるときに役に立ちます。超音波の基礎から各術式のポイントまで広くカバーできています。
臨床的に困るポイントなどもしっかり説明されていて読んでいて普通に面白い。ただ、やや冗長な印象はあります。
JB-POT受験しない人でもTEEの勉強をはじめる人にはまずお勧めしたい1冊です。
③、④ともに最新ガイドラインには対応していません。
⑤解きながらレベルアップ 経食道心エコー問題集
おすすめ度:★★★☆☆
アメリカの経食道心エコーの試験であるPTEeXAMという試験の対策本です。動画問題のCDが付属(Windowsでは問題なく使えましたがMacで動作できるかは不明)しています。
(もともとJB-POTは日本版PTEeXAMとして始まりましたが、実際の試験はこの本よりかなり踏み込んだ内容が出題されてきます。)
模試形式で5回分載っていますが、文章問題は似たような形式なので2,3回分解ければよさそうです。
主に計算問題対策と、動画問題対策として使用しました。
動画問題はとにかくエコー動画に慣れ親しむ必要があると考え、2回目の受験時は動画をひたすら見続けました。
冠動脈と左室壁セグメントの対応問題は、現在のガイドラインと異なるため注意が必要です。
ビデオ問題の対策ができる本は貴重で、特に先天性心疾患はなかなか臨床でも経験しにくいため、個人的には使ってよかったです。
⑥周術期経食道心エコー図 効率的に学ぶために
おすすめ度:★★☆☆☆
通称赤本。問題集として多くの人が勧めていますが、私は序盤の超音波の基礎までしか解けませんでした。
基礎固めとして重要ですが、JB-POT本試験はこの本の難易度を普通に超えてくるので、進捗が良くなければ講習会の視聴などを優先したほうが良さそうです。
絶対しなければならない、という位置づけではなさそうです。
⑤と同じく最新ガイドラインには準拠していないので、左室壁セグメントは現在のものと異なります。
⑦超音波の基礎と装置
おすすめ度:★★★☆☆
タイトルの通り超音波の基礎、エコー画像ができる仕組みについての本です。
JB-POTではこの分野は一定割合で出題される上、しっかり得点しておきたい部分でもあります。
JB-POTで出題される範囲以上のかなり細かい所までカバーしていますが、わかりやすく書かれており読む価値はある本です。
その他 役立ったもの
キヤノンメディカルシステムズが無料公開している、超音波画像の原理について学べるサイトです。
イラスト(動画)中心でイメージが非常に湧きやすいです。
1つ1つの項目はそこまで長くないので、スキマ時間でも利用しやすく、前項⑦超音波の基礎と装置との相性も抜群です。
e-learning形式で動画問題対策ができるサイトです。
日本心臓血管麻酔学会の会員でなければログインできないため、会員でない私は使用していません。私の周りでも何人か利用しており、ひたすら見ていたという人もいました。
2017年以降更新がされていないようです。
分野別 所感
超音波の原理・ドプラ
とっつきにくい分野ですが、問題数も多く比較的得点しやすいので早い段階から勉強しておいたほうが良い分野です。
圧較差やPISA法など計算問題も何問か出題されることがあるので、計算は演習をしておいたほうが無難です。
1回目の受験の時には「Dr. SONOの公開講座」を一通り視聴しながら、「周術期経食道心エコー図 効率的に学ぶために」の問題を解きました。
その後「超音波の基礎と装置」を読みましたがその段階ではそんなに時間をかけずに読み進めることができました。
2回目の受験時は講習会(特に直前講習)の視聴のみしかできませんでした。
「解きながらレベルアップ 経食道心エコー問題集」に計算問題が何問か載っているので対策をしたかったのですが、時間がなかったのでそこまで手をつけられませんでした。
高校で物理をしていたら理解しやすいかもしれないです。
収縮能/拡張能
様々なパラメーターの正常値・異常値を問われやすいです。また拡張能ガイドラインも頻出。
ひたすら数字の暗記なので大変ですが、覚えて損はなし。
テキストだけでは勉強しにくい部分で、講習会や直前講習を中心に勉強しました。
僧帽弁・大動脈弁
TEEが一番活躍するところで動画でも文章問題でも沢山出題されます。
正常解剖から臨床問題(治療まで!)幅広く出題されるため、最も力を入れるべき分野のひとつ。
「経食道心エコーハンドブック」で解剖を勉強しつつ、講習会や「TEE試験対策ガイド」等で動画問題の対策をするようにしていました。
講習会で言われる重症度分類や基準値などは暗記しないといけないところです。
先天性心疾患
難しい分野ですが、試験では講習会で出た内容が多く出題されます。
したがって直前講習は何度も見ておくことをお勧めします。
複雑なものはあまり出てこないので深追いは禁物。
私は臨床経験が不足していたので、「解きながらレベルアップ 経食道心エコー問題集」の先天性心疾患の動画は何度も見て対策をしました。
TAVI/Amplatzer/MitraCip/WATCHMAN
基礎知識や適応などが出題されがち。しかし症例問題もあるので油断はできないです。
動画問題でも出題される割に、「TEE試験対策ガイド」くらいでしか対策できないので勉強しにくい部分ではあります。
一問は出題される分野
・心臓腫瘍
腫瘍の発生頻度や好発部位について聞かれやすいが、やや難しい。
・収縮性心膜炎/拘束性心筋症
講習会ではあまり言われない割に出題される。直前に勉強しておくとおすすめ。
・心臓の発生/解剖
難しいことが多い。得点できなくても致し方ないと思う。
最後に
ここまでJB-POT認定試験の勉強法について述べてきました。
個人的に一番苦労したのは、日々の仕事でいかに時間を見つけて効率的に勉強できるかどうかでした。
忙しい中受験をしようとしている皆さまの参考になれば幸いです。
X(旧Twitter):@yutoridesuga113
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