研修医1年目が早くも終わろうとしています。
この1年を通して感じたのは「国試が終わっても勉強し続けないといけない」ことです。学生時代からよく聞くフレーズですが、身をもって実感しました。
今は研修医向けの本も充実しており、かなり勉強しやすい環境になっているとは思いますが、逆に選びきれないほどの本が出版されており困る時も多々あります。
この記事では、私が買ったり指導医から借りたりした本のなかから、研修1年目で非常に役立った書籍を診療科別/分野別に紹介していきます。
専門的で最新の知見が載っている本というよりは「その科に進むつもりのない人でもローテートで回る際には買っておくべき本」ないしは「将来どの科に進んでも役に立つであろう本」というコンセプトでチョイスしております。
それぞれの書籍の用途(通読向きか辞書的に調べもので使うか)と、内容の充実度・持ち運びのしやすさ・即効性(すぐに現場で使えるか)を個人的に採点しています。
4月から初期研修が始まる人向けの内容となっております!
はじめに
まず「病気がみえる」シリーズ、イヤーノートは捨てずに持っておきましょう。
可能なら最新版を用意した方が良いですね。
「病気がみえる」 はそれぞれの診療科の基礎的な知識を復習できますし、イヤーノートは気になった疾患の症候・検査・治療を軽く調べるにはもってこいです。
特に産婦人科・整形外科・眼科などのマイナー科は研修医向けの書籍が少なく、(将来的に進む予定が無ければ)専門書を買うよりも安上がりで、わかりやすいと思います。
救急
救急外来 ただいま診断中!
救急外来 診療の原則集―あたりまえのことをあたりまえに
用途:通読向き
内容:★★★
持ち運び:★★☆
即効性:★★☆
救急では有名な著者の本で様々な症候ごとの診断のポイントをわかりやすい言葉で書いてあり、非常に読みやすいです。
ここでは上記の2冊を紹介していますが、内容は重なっている部分も多くどちらか1冊買っておけば十分でしょう。
「救急外来 ただいま診断中!」の方がデータや様々なスコアなどを豊富に紹介しており、「救急外来 診療の原則集」ではそのエッセンスを抽出しまとめているため、後者の方がコンパクトに収まっています。
ただ、どちらも救急配属初日から役に立つかと言われるとそうではないです(恐らく本に書かれている以前の段階で躓くと思われます)。
これらの本はある程度救急に慣れてきた頃や救急の研修を終えてから、学んだことを復習したり自分の診断のプロセスが合っているかを確認するために非常に重宝します。
救急初日から持っておきたい本は次に紹介します。
当直医マニュアル2020 第23版
用途:調べもの
内容:★★☆
持ち運び:★★★
即効性:★★★
救急外来での当直の際にポケットに忍ばせておくべき本です。
「この疾患だと思うけど、どう対応しようか?」と思ったときの初期対応や検査、治療などのポイントがなんでも載っています。
鑑別のポイントやピットフォールというよりは辞書的に使うものですが、当直初日からでも直ぐに役立つので即効性は高いです。
毎年改訂されているのも個人的には高評価です。
循環器
3秒で心電図を読む本
用途:通読
内容:★★★
持ち運び:★☆☆
即効性:★★☆
かなり特殊な本だと思いますが、おすすめです。
心電図の原理や異常所見などはほとんどなく、「正常(の心電図)を正常と判断する」「致命的な所見を見逃さない」ことを主眼に書かれています。
ある意味、循環器に進む予定のない人ほどおすすめできる本です。
入職前に読んでおいても良いと思います。
ちなみに縦書きです。医学書で縦書きは珍しいと思います。
具体的な心電図波形については「心電図の読み方パーフェクトマニュアル―理論と波形パターンで徹底トレーニング!」や「レジデントのための これだけ心電図」などが詳しいです。どちらか一冊は持っておきたいところです。
呼吸器
ポケット呼吸器診療2019
用途:調べもの
内容:★★★
持ち運び:★★★
即効性:★★☆
呼吸器内科/外科の研修時には是非とも持っておくことをお勧めします。
ポケットに入る大きさでありながら情報量はとてつもなく多いです。
症候学、薬剤の使い分け、検査など一般的なところから肺癌のレジメン、COPD急性増悪の対応まで網羅。さらに毎年改訂されています(記事公開時点では2020年版はまだのようです)。
索引が無い点と文字が小さいところは弱点ですが、病棟に持っていきやすいので非常に重宝しました。
(追記)2020年3月31日に「ポケット呼吸器診療2020」が発売されるそうです!
Dr.竜馬の病態で考える人工呼吸管理
用途:調べもの
内容:★★★
持ち運び:★☆☆
即効性:★★☆
人工呼吸器の勉強は学生時代にはほとんどしていなかったので、知識ゼロからのスタートでした。
この本は各種モード(これが一番ややこしい)の違いなど非常にわかりやすく解説しており、初学者におすすめです。内容は充実しているのでわからないところはこの本でほとんど調べられます。
値段はそれなりにするので基礎の基礎だけでいいという人には少しオーバーワーク感もありますが、呼吸器内科/外科、麻酔科、ICUなど(場合によってはその他の外科系)の研修の前には持っておきたいところです。
感染症/抗菌薬
絶対わかる抗菌薬はじめの一歩―一目でわかる重要ポイントと演習問題で使い方の基本をマスター
用途:通読
内容:★★☆
持ち運び:★★☆
即効性:★★☆
抗菌薬の理論的な勉強はこの本を読んで理解し、現場で使い方に困ったときには次に紹介する「感染症プラチナマニュアル」を参照するようにしています。
抗菌薬の作用機序、歴史的背景などまで紹介されており、読み物としてまずこの本を読んでから、「感染症プラチナマニュアル」にステップアップするといいと思います。
感染症プラチナマニュアル 2020 Grande
用途:調べもの
内容:★★★
持ち運び:★★☆
即効性:★★★
現場で抗菌薬の選択や投与量を調べたい時はこの本か「サンフォード感染症治療ガイドライン」などになるかと思います。
抗菌薬別・細菌別・感染症(臓器)別それぞれ解説されており、初期診療でも役立ちます。
ポケットサイズの「感染症プラチナマニュアル」と大きめのサイズの「Grande」があります。内容自体はほぼ同じですが、大きい方が値段がやや高く、文字は大きめです。
私は余白に書き込みがしやすい「Grande」を使っていますが、内容は変わらないので用途に応じて好きな方を選んでもいいと思います。
サンフォードもこの本も投与量はアメリカ人基準なので、書いてあるそのままの投与量だと日本人には多すぎる可能性があり注意が必要です。
糖尿病
レジデントノート増刊 Vol.19 No.11 糖尿病薬・インスリン治療 知りたい、基本と使い分け〜経口薬?インスリン?薬剤の特徴を掴み、血糖管理に強くなる!
用途:通読~調べもの
内容:★★★
持ち運び:★☆☆
即効性:★★★
糖尿病はどの科を研修していても必ず出会う疾患の一つですが、糖尿病薬は種類が多くてなかなかややこしいです。
少し出版年度が古くなってしまったので最新のガイドラインとの乖離はあるかもしれませんが、それぞれの経口糖尿病薬の特徴、治療の始め方、インスリン治療からエマージェンシーまで、糖尿病診療の基本的な考えを理解するには十分にまとまっていると思います。
※2021年3月2日追記
昨年5月にこの本の改訂版が出版されました。構成はほぼそのままで最新の内容を反映しており、さらに合剤についても触れています。
単純にアップデートされて内容もパワーアップしているので、今から買うのであれば下の改訂版の方を選びましょう。
ICU
ICU/CCUの薬の考え方、使い方 ver.2
用途:調べもの
内容:★★★
持ち運び:★☆☆
即効性:★★☆
まずシンプルな表紙と本の分厚さから敬遠されがちですが、内容はわかりやすく読みやすいです。
主にICU/CCU領域で使用される薬に焦点を当てていますが、その他に輸液・輸血、栄養管理、人工呼吸器管理などICU領域に関することならほとんどなんでも載っています。
また抗凝固薬やステロイド、昇圧剤など普段も使う頻度が高い薬の使い分けの内容が充実しておりICUに関わることがなくても結構役立っています。
重すぎて持ち運びできる本ではないので、復習で使うことが多いです。
こういうことだったのか!! CHDF
用途:通読
内容:★★☆
持ち運び:★★☆
即効性:★★☆
ICUで必要なCHDF(continuous hemodiafiltration:持続的血液ろ過透析)の基本的原理を説明している本です。
ろ過とは、透析とは、という初歩的な部分から始まり、基本的なCHDFの設定について解説しており、初めの1冊として非常におすすめできる本です。
イラストも豊富で、また薄いので比較的すぐ読み終わります。ICUだけでなく腎臓内科など透析を行う科をまわる際には非常に役立つと思います。
基本的にICU、腎臓内科、泌尿器科などに進む人以外は読み直すことはないかもしれません。
外科
レジデントノート増刊 Vol.14 No.17 外科の基本―手術前後の患者さんを診る〜手術の流れや手技、周術期管理が身につき、外科がわかる、好きになる
用途:通読~調べもの
内容:★★☆
持ち運び:★☆☆
即効性:★★☆
どちらかというと手技がメインになりやすい外科ですが、器具の名称や周術期の管理などの総論を学びたい時におすすめの1冊です。
また基本的な手術(虫垂炎や鼠径ヘルニアなど)の流れ、CVポート増設、ストーマについても書かれており、一般外科を研修する場合には持っておきたい本です。
産婦人科
飲んで大丈夫?やめて大丈夫? 妊娠・授乳と薬の知識 第2版
用途:調べもの
内容:★★☆
持ち運び:★★★
即効性:★★☆
将来的に産婦人科に進まなくても、妊婦さんに対する投薬はどの診療科でも問題になってくると思います。
この本は薬剤師、助産師向けの本で、妊婦さんに対する薬の使い方がQ&A形式で載っており、妊婦さんへ処方する時に何かと役に立っています。
コンパクトなサイズなので持ち運びにも向いています。
手技
研修医手技マニュアル 第2版
用途:調べもの
内容:★★☆
持ち運び:★★★
即効性:★★☆
手技については本での勉強も大事ですが同じくらい実践することも重要だと思うので、手技の本についてはそこまでこだわりはありませんでした。
この本は国試の必修対策のために学生時代に買っていましたが、研修医に必要な手技(採血、縫合、CVなど)が1冊でまとまっており、また写真も豊富に載っていて重宝しました。
適応や禁忌、必要な器具なども載っており、非常に薄いですが便利です。
電子版もついており、スマホでも読めるのも強みです。
エコー
パワーアップ いまさら聞けない腹部エコーの基礎 第2版
用途:調べもの
内容:★★★
持ち運び:★☆☆
即効性:★★☆
研修医が行う頻度が最も高いエコーは(FAST含む)腹部エコーではないかと思います。
DVDがついているのもあってか値段はかなり高いですが、腹部エコーの本の中でも内容が特に充実しており、画像もわかりやすいです。
プローブの種類などエコー全般の話から載っており、エコーの勉強をする時の最初の1冊としても有用です。
サイズは大きく、それなりに分厚いので持ち運びには向きません。
超音波でわかる運動器疾患−診断のテクニック
用途:調べもの
内容:★★★
持ち運び:★☆☆
即効性:★★☆
運動器のエコーというややマニアックな分野ですが、興味深かったので技師さんに教えていただいた本がこれです。
腱板断裂、アキレス腱断裂、肉離れなどレントゲンやCTでは診断が難しい疾患もエコーで見えることがあるので、整形外科領域のエコーは意外と面白い領域です。関節リウマチでもエコーを使うことがあります。
基本的な当て方と解剖は1冊でほとんど網羅されていていると思います。
画像診断
胸部X線・CTの読み方やさしくやさしく教えます!
用途:通読向き
内容:★★☆
持ち運び:★★☆
即効性:★★★
学生時代に購入して読んでいましたが、研修医になってからも学ぶべきことが非常に多い本です。
胸部X線、CTの基本原理から説明しており、初めの1冊として非常におすすめできます。
異常陰影の種類や鑑別疾患はこの本でも十分解説されていますが、次に述べる「レジデントのためのやさしイイ胸部画像教室」の方がより詳しく解説されています。
医学生にもおすすめできる内容で、ポリクリで呼吸器を回る際にも買っておいて損はないです!
レジデントのためのやさしイイ胸部画像教室[ベストティーチャーに教わる胸部X線の読み方考え方] 改訂第2版
用途:通読~調べもの
内容:★★★
持ち運び:★☆☆
即効性:★★☆
「胸部X線・CTの読み方やさしくやさしく教えます!」を読んだ後、更にステップアップした勉強をしたい場合はこの本をお勧めします。
それぞれの画像所見(異常所見)の解説が非常に詳しく、「どうしてこの所見が生まれるのか」まで踏み込んでおり、暗記ではなく「理解」させるという意識を感じる良著です。
CT・MRI画像解剖ポケットアトラス 第4版 I巻 頭部・頸部
CT・MRI画像解剖ポケットアトラス 第4版 II巻 胸部・心臓・腹部・骨盤
CT・MRI画像解剖ポケットアトラス 第4版 第3巻 脊椎・四肢・関節
用途:調べもの
内容:★★☆
持ち運び:★★★
即効性:★☆☆
CT、MRI画像の正常の解剖の名称がひたすらに載っている本です。
この本で画像読影の技術が上がるわけではありませんが、カルテに画像所見を記載する際に部位の名称がわからなくなったらこの本で参照しています。
特に脳のCT、MRIはややこしいので重宝しています。
輸液/栄養
看護の現場ですぐに役立つ 「輸液」のキホン (ナースのためのスキルアップノート)
用途:通読向き
内容:★☆☆
持ち運び:★☆☆
即効性:★★★
入職前に読むべき本です。
タイトル通り看護師向けの本ですが、点滴ラインの組み方、三方活栓の仕組みなど現場ですぐに役立つ内容が載っているので目を通しておくと、いきなり現場に出ても焦らずに済むかもしれません。
国試でも108H9のような出題があるので、学生のうちから買っていても損はないかもしれません。
治療に活かす!栄養療法はじめの一歩
用途:通読向き
内容:★★☆
持ち運び:★★☆
即効性:★★★
すべての診療科で役立つ 栄養学と食事・栄養療法
用途:調べもの
内容:★★★
持ち運び:★☆☆
即効性:★★☆
学生時代にはあまり勉強しない栄養学ですが、どの科でも必要な知識となるのがこの分野です。
入院患者は当然いろいろな問題を抱えており、栄養失調、誤嚥リスク、代謝性疾患、消化不良…などに対してどのように食事をオーダーするのかは非常に重要な問題です。
「治療に活かす!栄養療法はじめの一歩」では、栄養状態の評価、3大栄養素などから具体的な栄養療法の組み方に至るまで解説しています。
続編に「モヤモヤ解消! 栄養療法にもっと強くなる〜病状に合わせて効果的に続けるためのおいしい話」という本もあり、さらに生化学、生理学の内容に深く踏み込んだ話が載っています。しかし「はじめの一歩」に入りきらなかったおまけ話という感じで、最初の1冊には向かないと思います。
「すべての診療科で役立つ 栄養学と食事・栄養療法」では、小児や妊婦、高齢者などのライフステージ、生活習慣病を合併した患者さんの栄養指導などから特殊な代謝性疾患の栄養療法の注意点まで載っているため、栄養管理で困ったときのトラブルシューティングとして使えます。
具体的なEN(経管栄養)、PN(静脈栄養)の組み方は「はじめの一歩」の方が詳しく勉強できます。
栄養療法(特にTPN)については以前記事を書いているので、よかったらこちらも参考にしてみてください。
レポート
ジェネラリストのための内科診断リファレンス: エビデンスに基づく究極の診断学をめざして
用途:調べもの
内容:★★★
持ち運び:★☆☆
即効性:★☆☆
症例レポートの参考資料として役に立つ本です。
各疾患の身体所見、検査の感度・特異度・尤度比など事細かなデータが載っているためこの本の引用論文を参考にレポートの考察を書いていくと時間短縮ができると思います。
最後に
私が研修中に役に立った本をまとめてみました。
医学書は本当に高いです。買って失敗したと思う本も(記事には書いていませんが)もちろんあります。
情報を得る手段は本だけではありません。今やスマホで簡単に検索できる時代です。
「とりあえず役立ちそうだから買っておこう」では、本棚で腐ってしまうかもしれないのでおすすめしません。
案外「必要に駆られて買った」本の方が何度も読んでいるように思います。
自分に合った「良い本」と出会うことに勝るものはありません。
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