輸液のお話です。
以前にもTwitterでも書いた話ですが改めて記事にしようと思います。
「生食を輸液しすぎるとアシドーシスになる」という話を聞いたことある人はいらっしゃるかもしれません。なぜそうなるのかという答えは後ほど、、、
ともかく、輸液って体系的に勉強するのが難しい印象で、「ただ一つの正解」というのはあまりないです。いろんな正解がありますし、正解の中でも良し悪しがあります。
生食でアシドーシスになる訳
いろいろな考え方があります。
①人体のpHの正常域は7.4と少しアルカリ寄り。ここに中性の生食(pH7.0)を投与すればアシドーシスに傾く。
直感的に考えるならこれが一番でしょう。
②生食には重炭酸イオン(HCO3⁻)が含まれていないので、大量に投与するとHCO3⁻が薄まってアシドーシスになる(希釈性アシドーシス)。
③生食はNa⁺154mEq, Cl⁻154mEqでClが少し多めなので、投与すると高Cl性アシドーシスをきたす。
これらの解釈でもOKです。重炭酸イオンが含まれていないことがポイントになります。
さらに②③で覚えておくと生食投与によるアシドーシスが代謝性アシドーシスであることも理解しやすいですね。
とはいえ、500mL~1000mL投与したくらいでは問題になるほどのアシドーシスにはならないとされています。ではどのぐらい投与したらだめなのかと思いますが、まだまだエビデンスのある論文は少ないようです。
豆知識程度で知っていると便利かもしれません。
※糖尿病性ケトアシドーシスの第一選択は生理食塩水の大量輸液ですし、、、
乳酸(酢酸/重炭酸)リンゲル液
ともかく、生食より生理的な輸液として考えられたのがリンゲル液です。
Na⁺やCl⁻を少し抑え、K⁺やCa⁺を少し加えています。本来ならHCO3⁻も加えたいところですが、昔は技術的にHCO3⁻を輸液に付加することが難しかったそうです。
そこで考えられたのが重炭酸の代わりに乳酸を加えた乳酸(加)リンゲル液です。
乳酸は投与されると速やかに代謝されてHCO3⁻を生じるので、アシドーシスになるのを防ぐことができるのです。
乳酸の代わりに酢酸を加えた酢酸リンゲル液もあります。酢酸も乳酸と同様代謝されてHCO3⁻となります。
乳酸と酢酸の違いは体内で代謝される場所です。
乳酸は肝臓で代謝されるため乳酸リンゲル液は肝障害のある場合は使いにくいとされています。
一方酢酸は全身の筋肉でも代謝されるため酢酸リンゲル液は肝障害時にも使えると言われています。
※ただしこの使い分けは意味がないという意見もあるようで、アメリカなどでは乳酸リンゲル液しか使われていないようです。
最近は技術の進歩でHCO3⁻をそのまま付加できるようになりました。そこで生まれたのが重炭酸リンゲル液(ビカーボン®)です。
もっとも生理的とされていますが、値段が高いので使用頻度はあまり高くはないです。
医師国家試験はここまで知っておけばOKでしょう。
生食やリンゲル液は「細胞外液」と呼ばれます。略して外液と言ったり晶質液とも呼ぶこともあります。
これらの輸液製剤は血漿浸透圧の因子の一つであるNa⁺の濃度が高いので細胞内より細胞外(血管と間質)に留まりやすい特徴があります。
他にもある細胞外液
この他にも少し特殊な細胞外液があります。
フィジオ®140
酢酸リンゲル液をベースに1%ブドウ糖とMg⁺が付加されています。
大量輸液で低Mg血症となり致死的な不整脈を起こすことがありますが、それを防止することを期待して用います。
ちなみに「140」とはNa濃度のことです。
ポタコール®R
乳酸リンゲルに5%マルトースが付加されたものです。
通常の輸液製剤では糖質はグルコースとして付加されていますが、この輸液は2糖類のマルトースを付加されており、浸透圧がより血漿に近づいているそうです(グルコースだと1糖類なので同じエネルギー量を入れると浸透圧が2倍になるらしい)。
ただそんなに使われているのを見たことはありません。
ボルベン®/ヘスパンダ―®
HES製剤と呼ばれるもので、生食や乳酸リンゲル液をベースにヒドロキシエチルデンプンを加えたものです。
デンプンが多糖類であることからわかるように、ヒドロキシエチルデンプンは非常に高分子で血管壁を通過することができません。
細胞外液は血管と間質に均等に分布されますが、ボルベン®やヘスパンダ―®はこのヒドロキシエチルデンプンのおかげでほぼ全て血管内に分布し、血管内ボリュームを一気に上げることができます。
非常に高価であること(アルブミン製剤ほどではないが)と、高分子のために腎機能障害を起こす可能性があり術中の急な血圧低下など限られた場面でしか用いられないようです。
Twitter:@yutoridesuga113
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